数的思考力, ステップ 7

数的思考力

世界と言語の間に数的思考

鶏が先か、卵が先か」といった問題があります。物事の起源を考える時はこうした問題に突き当たることがあり、考え方が分かれます。同じように、言語にもそれに似たような問題があります。

つまり、「世界が先か、言語が先か」という問題です。初めに世界があってたくさんの言語が生まれたのか、初めに言葉があってそれらの言葉を通じて世界がつくられているのかという問題です。

こちらも言葉を研究する人たちよって考えが分かれます。もちろん、そうではない視点でこの問題をとらえることもできるでしょう。それは折衷するという視点です。

さて、数的思考という領域ではどう議論を展開することができるのでしょうか。思考は言語を操ることによって行われる(言語決定論の立場での)営みです。

そこでは、数的な意味のある文字と操作を示す記号が言語として用いられることで、思考が展開します。

数的な言語は、世界に存在する凡そ7000もの言語とは違い、各自の文化に左右されずに誰もが理解できる言語です。

しかし、解釈となると違います。異なる言語が壁となるからです。したがって、数的思考は、世界と言語の間を限りなく近づけるような役割を果たすのではないかと思います。

思い出すこと

私がお慕いしている方の一人に上村一郎先生がいます。先生は私に大きな希望を与えてくれました。岐阜の西濃地域で教員をしていた頃、小学校で出会い、ご自身の生き方や蘭の花の栽培についてなど、一つ一つ丁寧にお話ししていただきました。

先生から学んだことでいくつか印象に残っていることを紹介します。先生は街中の学校から山間の学校まで、多くの学校で教員をしてきました。私が出会ったときは、学校文化の様々な事を経験し、助っ人として臨時に学級で教えたり、特別支援教育の指導を行ったりしていました。

通級指導で児童を見てもらう時には特にお世話になることが多かったのですが、児童の持つ高い能力の引き出し方についてのエピソードを聞かせていただくことがありました。

先生は以前、法曹になるための勉強をしていました。その時に実践していたことだと言ってました。それは、法令について学び、その判例について理解し、小論を立てる過程で身につけたという手法でした。端的に言えば、「言葉を多く暗記する方法」なのですが、それを児童の学力を向上する手法として取り入れたのです。

つまり、現実には想像もできないほど大袈裟に事物の言葉を認識し、自分の体の各部と結びつけて理解していくという手法です。こうして理解した言葉を保護者の前で披露し、我が子が持つ力を知って驚嘆させたということでした。

また、先生が通常学級で担任をしていたときに、理科の植物の参観授業で、教室の中を一面蘭の花で囲み、児童の学習意欲を引き出すとともに、保護者の驚き、感動を与えたということでした。これには、先生の「感動を与えるには、教材として本物を見せ、実際に体感することが一番だ」という信念が見て取れます。

認知と情動は人の営みの中で別として捉えている空気がありますが、人知では全て理解できない本物の美しさを介して結びつくものであるということがよくわかるエピソードでした。

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